「妻のがん告知からの一年を振り返る」 笹田 隆志 会員
家内が昨年七月にがん告知を受けて一年が経ちます。その間にお見舞いをいただいたり、ご心配をいただいた方々へのご報告と、会員皆さんはお仲間でなので、身の上話を聞いていただくつもりで、この一年を振り返ってお話をしたいと思いますので、しばらくお付き合いくださいね。
家内はいやなことや気になることがあると、お腹の調子を壊すことがよくあり、その当時も下痢が長引いた程度で、目立った自覚症状はありませんでした。
念のため近所の内科医で大腸の内視鏡検査をうけたところ、腸閉塞の一歩手前であることがわかり、関西労災病院で下部消化器外科の精密検査を受けた結果、S字結腸原発の大腸がんと診断されました。さらに転移は肝臓、肺と血液、リンパに及ぶ進行がんで、5年存命は50%との説明を受けました。体調も平常で何の自覚症状もない本人と家族には、とても受け入れることのできない告知でした。しかし状態は深刻で、腸閉塞を避けるため至急の内視鏡手術で腫瘍を摘出、人工肛門にはならず手術は成功しました。手術時間は3時間程度で、予定よりも二時間くらい短くて済みました。
術後の八月九月は抗がん剤治療で肝臓の腫瘍を小さくして、次の摘出手術に向けた体力作りに努めました。
12月に肝臓の腫瘍を一区画ごと摘出、今回も腹腔鏡による手術でしたが、時間は11時間に及びました。手術は成功し切り取った肝臓の大きさは、片手のこぶしくらいでした。時間はかかりましたが輸血をすることもなく、回復も順調です。医者によるとレーザーで丁寧に切除するのに時間を要したが、問題はありませんでしたと。
年が明けて肺の腫瘍はまだ残りますが、腫瘍マーカーCEAも5に近づき、小康状態を維持しながら、次の肺の手術に備えた体力作りにつとめていました。
その間に予想もしていなかった卵巣に転移が見つかり、こちらの手術を優先することになりました。外科で経過を見ていたのですが、同じ病院の産婦人科に診てもらったときは、手のひら程度の大きさに腫れていました。画像では腫瘍というより、水分を吸収したのう胞がいくつもつなぎ合わさっている状態です。
5月の手術は開腹手術で、人工肛門のリスクが前回より高い説明を受けていましたが、幸いそうならずに済みました。
一年で三回の手術を受けたので、家族で相談した結果肺の腫瘍は手術をせずに抗がん剤を中心に抑える治療を選択しました。
この時点では関西労災から神戸低侵襲がん医療センターに主治医を変えて、現在外来治療を継続中です。
がん治療の分野は日進月歩で、新しい情報が日々提供され続けています。その中から自分に合った治療法にたどり着くには、周りの家族の協力と相談出来る人との出会いが大切です。相談できる人とは医者だけとは限りません。周りには意外とがん持ちの方がおられます。治療を経験した方のちょっとした一言は、患者には大きな励ましになります。少し調べるだけでも、がん治療に関わるいろいろな立場の人々の情報に接することも可能です。その中から患者一人一人に合った無理のない治療法を選び、試し、継続していけば、毎日の積み重ねが寿命を永らえる作業につながります。
がんはひつこいので、こちらも根気強く取り組まないと負けてしまいそうになります。そのためにも明るく笑って過ごす毎日を心がけつつ、相変わらずティッシュペーパー一枚で口論もしながら、にぎやかで元気に一年を迎えました。妻はがんと生きる覚悟をようやく自分に落とし込みつつ、往生際の悪い旦那は頭でっかちの治療話を持ち込んでは、たしなめられています。
長い身の上話にお付き合いいただきありがとうございます。
また、家族例会でお会いしましょう。