「地震と建築」 鈴木 正明 会員
今日の建築設計事務所は、大手の事務所を除く多くの事務所が、構造設計設備設計をこなせることはなく、独立した個々の事務所、すなわち構造設計事務所設備設計事務所が、設計を共同ワークで作り上げていく。否、これは今日に始まったわけでもないが、数少ないクライアント、そして弱い経済力の環境では、致し方ない事である。そのような中で起きたのが、耐震偽装事件である。一つの事務所で相互のレビューが出来なく、見過ごしてしまう。意図的に偽装したにもお粗末である。
私の事務所も例外ではなく、構造設計、設備設計は外注である。そこに構造設計はおのずと 『 構造設計事務所がやるもの 』 の意識が存在する。設備設計も然りである。人間の体で言えば、骨が構造設計であり、血液・臓器が設備設計であると若いころ教えられたが、意匠設計といえば、いかに 『 美人をつくるか 』 を考えてしまう。私もそんな環境で仕事をしてきた。
そんな中、私の周りに構造設計をしてくる事務所がない仕事が発生した。困り果ていろんなとこに、問い合わせしたが相手にしてくれず。挙句の果てに天下の日建設計の常務に、知人を通じ相談することにしたが、これも相手が大きすぎ話にならない。ただただ時間が過ぎるだけ数週間をすごしたのが、現在進めている神戸の寺院建築である。
構造設計における計算方法は、許容応力度計算・限界耐力度計算・時刻暦応答解析の3ルートで建物の構造体を設計する。個々の説明は、自分自身構造設計の専門家ではないので省略する。石場建ての柱による構造設計は現在の建築基準法の許容応力度計算では、基礎と柱は金物で緊結しなければなりません。
石場建ての建物が現在の基準法にて確認申請が認可されません。しからばどうすれば確認申請が認可してもらえるか、はたまた深い闇の中に入ってしまう始末でした。
石場建ての専門書を読んでいる中で、限界耐力度計算で設計し確認申請が認可された建物があることを知り、又、その中である書物が参考になった旨の記述があり早速、アマゾンのネット通販で購入したのが 『 地震と建築 』 でありました。
建築士の資格は皆さんご存知かとは思いますが、耐震偽装事件以降厳格化され一級建築士の中に、構造一級建築士・設備一級建築士の資格が新たに創設されました。
構造一級建築士は、確認申請の中で一定規模以上は構造審査がダブルチェックを必要となりました。厳しいことはクライアントにとってよいことであり、必要な事ではと思っていますが、確認申請の時間が従前より数倍かかり審査手数料も高額となり負担が大きくなったことも事実です。設備一級建築士は床面積が5000㎡以上の建物に関与する資格になりましたが、これも従前よりあったことですが、資格者の印鑑が必要になりました。
私は単純に一級建築士のみ資格であり、構造のパートナーは外注事務所で仕事をお願いする。計算ルートくらいの知識しか持ち合わせなかったのであります。
そこに 『 地震と建築 』 を読みざるをえない状況になり、地盤とは何かなどなどを再認識したのであります。
建物をいかに地震動周期に共振させないことが重要であり、それを探るには何をしたらよいかを学び実践したのが、地盤の卓越周期を調査することでした。
卓越周期を調査し建物の固有周期と合わせないことが必要です。
地質の専門家に相談しましたところ、地盤は海の波により常に動いているので常時微動がわかれば、地震の際には常時微動の周期にて地表まで増幅してくるので短周期か長周期かがわかれば対応が出来ますとの事で、深夜電車が止まってから地表面から50mの地点で測定し、その結果卓越周期は、0.23~0.50との結果が出ました。これは短周期の数字で石場建ての木造建築物には、共振しない結果が得られました。ところが地層の傾斜角が5度未満でないと、この数値は使えないとのこと。
傾斜角が5度以上あると、地表面に伝わる地震波の増幅が予測しにくい。
結果、常時微動が短周期であること、地盤は洪積層で比較的しっかりしていることが判り、安心要素と不安要素があることを、認識しました。
以上の結果、石場建ての本堂建築については足固め貫を二重にすることで決着し計算方法も限界耐力度計算にて、確認申請も認可に至り来月から建て方を始めます。
クライアントである、ご住職には次のようなことをお話いたしました。
『 落雷で燃えない限り、想定外の地震で倒壊したら再度組み上げましょう。 1尺5寸 8寸 9寸 1尺の柱で構成される伝統貫構法の良さです 』 ご住職は、笑ってました、やはり大人物です。 つづく