「刑事事件について」 豊島 秀郎 会員
本日は、刑事事件の話をします。
私は、民事事件を中心に活動しています。しかし、全く、刑事事件をしないかというとそうでもありません。
1つは刑事告訴はします。数年に一度程度です。主として横領・特別背任といった事犯です。
一番大きい事案は、平成4年の大手の電気工事会社Rの大阪支店長Tの事案でした。支店では手形発行を禁じられていたのに、
Tが会社を作り、その会社で十数億の手形を振り出し、Rの裏判を押し、信用金庫が割引し、バブル期の沖縄の開発に資金をつぎ込んだが、バブル破綻とともにその十数億円が焦げ付いた事案でした。このTは大阪の同和の切り込み隊長の如く言われていた人物でしたが、東京の本社は全くそのことを知っていませんでした。同和はでてくるわ、右翼・暴力団はでてくるわ、で大変な事件でした。私の事務所に右翼の街宣車が横付けされたこともありました。私も、夜、事務所を出るとき、襲われる危険を感じていたので、毎日、気をつけていました。結局、Tとその子分が逮捕されましたが、逮捕の翌日には、大手新聞誌すべての1面トップで大々的な記事となっていました。大阪地検特捜部に告訴したのですが、担当検事から、Tの素性、即ち、Tが竹下元首相も絡んだ金屏風事件に出てくる〇〇龍子と昵懇であり、〇〇龍子がいかに凶暴な人物であるかなどの説明を受け、「今までよくご無事で」と言われました。
その他の事件は、小ぶりな事件です。民事事件で、判決を得ても、相手方の資産が判らず、回収できない場合に、刑事告訴をすることがあります。
警察も、そのことを判っており、めんどくさいので、なかなか告訴の受理をしません。こちら側に調査を要求します。私には強制捜査権はないわけですから、調査にも限度があります。警察が調べればすぐ判ることについても、こちら側に調査を要求されます。告訴が受理されても、警察は、すぐには動いてくれません。横領事犯では、時効の直前まで、3年程度はほったらかしです。でも、警察が一旦動けば、私の経験では、相手方は必ず、支払って来ました。例えば、数十件の横領金額の合計1300万円程度の横領事件では、民事事件の時には相手方は私の請求について、せせら笑っていました。しかし、警察の動きがあったとたん、弁護士に依頼し、その弁護士から、「今、1300万円、私の机の上にある。これを受け取ってくれ。」との電話がありました。私は,1300万円に対する金利の支払いがないので、どうしようかと思いましたが、依頼者と相談して受け取りました。
もう一つは、依頼者が、逮捕等された場合の被疑者弁護です。これも、数年に一度程度です。警察は、こちらが刑事告訴する場合には、先ほどのように、こちらに追加調査を要求し、なかなか告訴の受理をしないのにもかかわらず、簡単に逮捕する場合もあります。数年に一度、被疑者弁護を受任した場合、必ず、罪を大幅に下げさせるか、公判請求を断念させています。警察の逮捕はそれほどいい加減なのです。又、被疑者弁護において弁護士の役割は重要です。
これは、私が成果を上げたものではないのですが、警察がいかにいい加減に逮捕するかを示す事案を紹介します。後で私の依頼者となるNが5000万円を当時の顧問弁護士Mの妻に貸し、その妻が暴力団にその金を貸したという事案がありました。その妻が返済期限の平成25年12月9日になっても返すそぶりもないために、同日、ホテルで6時間あまり話し合ったことがありました。暴力団が資金の返済をしないため、Mの妻も返済ができない状況となったものです。その日の会合は、お金を借りた暴力団も時折参加しましたが、NとMの妻の話し合いは円満なもので、途中、集まった人間皆で食事もとっていました。最後の1時間は弁護士であるMも参加していました。ところが、Mの妻が、その話し合いで恐喝されたとして、その会合に参加していた4名程度の人を、恐喝未遂で被害届を出しました。そして、翌年6月3日、4名は、一度の任意捜査もなく、突然、逮捕されました。この事件の場合、Nが、6時間に及ぶ会合を全て録音しており、録音とその反訳を警察に提出することにより、拘留を免れ、6月6日に釈放されています。私には、この警察の捜査手法が理解できません。警察は、このようにいとも簡単に逮捕する場合があります。
昨年、4月、私の以前からの依頼者Aが、私文書偽造・詐欺で逮捕されました。Aが、5年くらい前、Bから内装工事を頼まれ、下請としてCを使い、工事を完成しました。Bからは工事代金を受領しましたが、その代金は他の支払いに充ててしまい、Cに支払わなかった。これは単なる債務不履行で、刑事事件にはなりません。ところが、Aは、Cから督促を何度も受け、その督促を一時的に免れるために、B名義でA宛に、工事代金を支払っていないこと、それをいついつに支払いますとの文書を作成し、それをCに渡したとの事案でした。Aは、4月のある日の10時頃、京都下京警察に逮捕されました。私のところにすぐ電話があり、私は12時頃には接見しています。事情を聞き、私は、詐欺ではないと説明しましたが、Aによれば、警察は詐欺だと言っているとのことでした。この事案の場合、私文書偽造は成立しますが、処分行為がなく、詐欺は成立しません。又、私文書偽造は、それだけで逮捕するような犯罪ではありません。検察がどう落としどころをみつけるのか、悩みました。警察に詐欺の立件をあきらめさせるべく、1週間に5日程度の割合で接見に赴き、Aに供述の仕方を教えました(警察は、自分に都合のよい絵を描き、被疑者にその絵に沿った調書を署名させることがよくあります。)。最後は、検察が、私に泣きつき、相手方と示談してくれと言ってきました。当時、Aから別件で1200万円程度のお金を預かっていましたが、その資金は別件のための資金として必要なものでした。示談をするにはその資金を使わざるを得ず、私は余り乗り気ではありませんでした。しかし、Aは一刻でも早く拘留から解放されたく示談を望み、検察も矢の催促で、結局、700万円を支払って示談し、Aは、示談成立と同時に、拘留期限を待たず解放されています。逮捕するには、その被疑事実について、検察官もチェックし、裁判官の令状も必要です。なぜ、この件で、捜査担当者等が、詐欺で逮捕し得たのか、全く不可解です。