「私の3K: 日本の教育、ことばと交流」 ゲストスピーカー ズニエガ・シム氏 (福島三雄会員ご紹介)
私が以前フィリピンの大手法律事務所に所属していた頃、主に会社問題と知的所有権関連の業務を担当していました。毎年アジアの各地で開催されるアジア弁理士大会にも参加でき、福島氏との出会いがきっかけでした。数年前に私が出張で大阪の土地に足を踏んだ時、福島氏には大阪の弁護士会館や高等裁判所等、案内していただき、大変お世話になり、あれから数年が経ってから、こうしてみなさまとの、本日の出会いができたのも、福島先生のお陰です。心から感謝します。
日本の教育は日本人特有のものと考える日本人がいるようで、今、話題になっている北朝鮮の拉致問題ではありませんが、日本語を自由に使いこなせるのは、スパイ以外、日本人しかいないと考えているようです。私が初めて来日したころ、片言の日本語をしゃべっていたら、「日本語がお上手ですね」とよく言われて、上達するにつれて、「上手だ」とだんだん言われなくなりました。最近、仕事で日本に来る時、せっかく身につけた日本語で話し、変な顔で見られて、相手の日本人が英語でしゃべりつづけたこともあり、知識度の高い日本語を使って意志疎通が図れるということでスパイのように思われたこともあります。
外国人だから、外国語、それはもっぱら英語でしゃべるのだという考えです。テレビを見ると、達者な日本語で話せる外国人が芸能界の方々とのイメージですが、日本社会若しくは国際舞台においてプロフェッショナルとして日本の大学で教育を受けて、日本語を使いこなせる外国人のことがまだ知られていないようです・日本の大学で、日本人と同じ席で講義を受けて学術的な日本語で意思疎通を図ったり試験を受けるような外国人が年々増えてきている中、日本語は日本特有のものでなくなり、英語とかスペイン語・中国語に並ぶ国際言語の一つと言っても過言ではないように思われます。
私が学生の頃、「日本人だって国立大学なんてなかなか入れないのに、外人がまさか。。。」とか「本当に最後まで日本の大学で勉学しつづけられるのかな」とか、出会った日本人の何人かに言われたりして、日本の教育というのは日本人の排他的な産物だな~と感じて、落胆しました。日本人学生といっしょに無差別的に、同じ講義に参加したり、試験を受けたり共に苦労したりする外国人留学生ではありますが、外国人を日本の学問の世界そして一般社会に受け入れられる理解・配慮がまだまだ足りないところがあると感じました。日本で教育を受けていれば、日本人とは教育という接点を通じて交流しやすくなるのではないかと思ったのに、日本の教育が逆に外国人を排除する壁の一つだと感じる時があります。
母国に帰った後、私はフィリピン駐在の日系企業の顧問弁護士にもなったり、トラブルに遭遇して助けを求める日本人の弁護もしています。今までの体験の中で、遣り甲斐のある事件と言いますか、面白いかなと思う日本人絡みの案件をここで幾つか触れたいと思います。
1.女性関係の事件
ある日本人男性(ちなみに大阪出身の社長)がマッサージを若い女の子に頼むことになって、女がホテルを出た後「この男性に暴行された」と騒ぎを起こしたことによって、男性は逮捕され、「つつもたせ」の事件に引きずり込まれました。
2.空港でのトラブル
最終審査で手荷物をきめ細かくチェックされる時に、60歳の東京の運転手さんがいらいら、はらはらして、空港警察官に対して日本語で「危険物は荷物にあるはずがなく、頭をつかいなさい」と指で相手の頭に指をつつき、公務執行妨害で逮捕されました。
3.国際結婚における夫婦間のトラブル
外国人には土地の所有に制限があるので、若奥様の名義で土地と家を購入した日本人の旦那が結婚して5周年を迎えようとした時期に、旦那の魅力を感じなくなったせいなのか、入国管理局で日本人旦那が好ましからざる外国人として訴えられて、強制送還手続きを起こされた事件です。
こんな話をすると、皆さんがフィリピンとは怖い国のように思われがちでしょうが、決してそうではないのでご安心下さい。トラブルに会う日本人とうのは「身から出たさび」と言いますか、ほとんど、自分に何らかの「碑」、「不注意」とか、「過ち」があったからこそ、酷い目に遭われると思います。老後生活をフィリピンで過ごしたい日本人の年々増えているので、実際住んでみると、「危ない」とか「怖い」国ではありません。
最近の動きですが、音信不通の日本人父親とフィリピン人との間にできた「新日系人」の救済対策にも私が関わるようになりました。日本の外務省と法務省は、介護施設とか工場で母親に就労の機会を与え、子供が日本国籍ということから、子供の養育のサポート役として、母親に特別なビザを与えるという動きがあります。
弁護士としての任務は、ことばとを潤滑油、場合によって武器としてつかうことがあります。日系企業そして困った日本人のいろんなニーズに対応できるのに、私が日本で受けた教育と習った日本語が大いに役立ちます。ことばを扱う仕事でわかったことの 一つは、人間同士で理解が伝わらない原因というのは、 ことばよりも、その裏にある先入観だということです。ことばが、例えば同じ日本人の間、夫婦の間でさえ、交流・理解がうまく行かないことがよくあります。私の経験上、教育とことばが二つの柱のような役割を果してきていますが、その反面、その二つの柱が交流を妨げる場合があるということも感じます。身についた語学力を生かして、生活習慣、文化、言葉、考え方がぶつかる場面を見せられました。この仕事では、日本人との交流を促進する満足感を得られる瞬間もあれば、衝突を肌で感じることもありました。
こうして今、日本のみなさんと日系企業のいろんな法律上の問題に対応できるのも、異国出身の私ではありますが、まさしく、日本で教育を受けたり、ことばをマスターできたお陰でしょう。もちろん、外国人に対して、なかなか馴染まない、閉鎖的な考えをもつ日本人がまだいらっしゃるようですが、交流を深める中、腹を割って素直な心で気持ちが通ずる日本の皆さまとの出会いもあります。お世話になったり、温かく迎え入れていただいたり、広い視野で配慮していただく、ロータリークラブ一同のような、日本の皆さまに脱帽です。
日本とフィリピンは距離的に非常に近いことから、これからも交流がより一層深まる一方です。60数年前、我々の国々は敵対関係にありましたが、今は平和の時代であり異国出身の私たちが弾圧とか、差別を受けることなく、日本の大学の門をくぐって勉学の機会が与えられ、私も日系企業そして日本のみなさんの弁護をする立場になるとの光栄な特権を与えられました。 日本のみなさんにとって友人、商業・教育のパトナーや日比友好のかけ橋として、日本社会そして国際舞台において益々貢献し羽ばたけるように、これからも頑張って参りたいと思います。こちらがお役にたてることがありましたら、ご遠慮なく声を掛けてください。どうか一つ、よろしくお願い申し上げます。
ズニエガ・シム
フィリピン国弁護士
Sim Zuniega