「渋沢栄一」 小林 知義 会員
渋沢栄一の経営理論
有名なトーマスピケティというフランスの経済学者が「21世紀の資本論」の中で、このまま資本主義が進んでいくと世界中で貧富の格差が広がりすぎて、資本主義そのものが崩壊すると示唆しています。また、私の尊敬する水野和夫という経済評論家は「資本主義の終焉」という本の中で低金利時代が続く金融資本主義の限界について触れています。ただ、両人とも金融資本主義に警告は発しているものの、どうすればいいかというその処方箋については明確にはしていません。
そこで、私は、その答えを敬愛する渋沢栄一の「論語と算盤」というの中から得たいと思い、少し、調べて見ました。確かに、産業革命以降、資本主義は間違いなく多くの人類を幸せにしてきました。一時、共産主義の運動が優先するかにみえた時期もありましたが、世界情勢からして結果は明らかとなっています。しかし、優先となったその資本主義が、これからも引き続き、人類を幸せにするのだろうかという問いに、はっきりした答えが出ていないのです。
特に、新自由主義という名の金融資本主義は、M&Aが、最も生産性が高く、手っ取り早く利益をもたらすと思われています。このまま野放しにしておけば、国際社会において、有り余った金融資本の行き場は、大き い・安い・早いが、一番の理念を持つグローバルな多国籍企業に集約されていくというのが必然となります。
そうなると、多くの企業も人も集約され、世界中、アメリカや中国の社会ように、5%の大富豪と95%の貧困者に分れる国際社会が形成される事となります。果たして、それで人々は幸せになるのでしょうか。
渋沢栄一は、多くの企業を創立した時から、現在のような資本主義の限界が来る事を感じ取っていたのではないでしょうか。多くの経営者に、算盤勘定だけの経営ではなく、論語を取り入れた経営を説いています。経営者にとって、会社は誰のものかという問いに対して、株主・資本家だけのものではなく、社会にとっても、従業員にとっても、大切な存在だと説いています。渋沢栄一の日本式資本主義の原点はここにあります。
論語を活かした経営と言う時には、終身雇用も年功序列も含まれるのですが、それって、生産性至上主義者の竹中平蔵がいうように、悪い経営なのでしょうか。当社は、まだ古い経営方式のままです。そして、私が経営している間は、その考えを変えるつもりはありません。それどころか、世界中の企業が渋沢栄一の唱える日本式資本主義で経営して欲しいと願っています。間違いなく雇用は安定し、格差は縮まると思います。
安いという理由だけでコロコロと仕入れ先を変えるつもりもありません。長く付き合ってきた信用のある仕入れ先から、安くして下さいとお願いする事はあっても、急に取り引きを止めることはありません。また、従業員を家族のように大事にする事が、間違った経営だとは、どうしても思えません。
多くの経済学者は答えを出せていないのですが、それも、当然な事だと思います。少しぐらい生産性が落ちても、社会や従業員に優しい経営をする事は、理に適っているという哲学が必要となるからです。
我々が目指すべきポスト資本主義は、グローバルな金融資本主義から、信用と信頼を大切だと考える持続可能なスモールビジネスに方向転換する事です。お金だけの一元的価値から幸せなコミュニティーのある暮らしに、もう一つの価値を見いだす事なのです。
そういう意味では、ロータリ-クラブは、最も幸せなコミュニティーの一つだと思います。職業奉仕だけではなく、社会奉仕など、ボランティアも含め、二つの価値を求めることができるからです。できるだけ長くロータリ-の活動を続けられればと思っています。これからも、末永く、よろしくお願い致します。