「ギリシャの神々」 小林 知義 会員
今日、卓話でお話しさせて頂こうと思っているのはギリシャの神々というテーマなのですが、何故、ギリシャかというと、高校3年生の時の西洋史の石井先生が話し上手で、ギリシャ神話や戦記について、何時間も面白おかしく授業をして貰ったというのがきっかけとなって、はまってしまいました。そのおかげで、進路も理系から文系哲学科へ変わりました。また、新婚旅行もギリシャに10日間滞在というギリシャ馬鹿を発揮して、ひんしゅくをかってしまいました。しかも、行程は本土の同じホテルに5日間、パルテノン神殿をはじめ、毎日、神殿や遺跡参りばかり、新婚の妻もさすがにあきれて、私はホテルにいるから一人で勝手に行ってよと、駄々をこねられた事を思い出します。ただ、ロードス島で3日間、ゆっくり過ごしたのは、充分喜んで頂けたようです。
ギリシャ神話を調べているうちに、何か日本の「古事記」「日本書紀」の神々によく似ている事に気づかされました。ギリシャでは混沌(カオス)からガイヤ(大地)が生まれて神話が始まりますが、日本では、天空に生まれた神、イザナギ・イザナミ(兄妹であり夫婦)が海をかき回して淡路島をつくる事から始まっています。共通することは、日本でもギリシャでも、八百万の神が存在し、どちらも天空に住んでいて、兄弟であったり、親子であったりしながらも、近親相姦お構いなしで結婚して、子供をどんどん作ります。彼らは自由奔放で、浮気もするし、嫉妬もするし、喧嘩もするし、嫌がらせもします。この何でもありの世界観が神でありながら人間くさくて、とても面白いなと思っています。
日本で有名な神話は、天照大神が天の岩戸に隠れてしまった物語とか、その弟の須佐之男命が出雲に行き、八岐大蛇を退治する話などだが、真実か嘘か解らないが、納得させられるのが不思議です。
ギリシャ神話に戻ります。ガイヤは自分の息子であるウラノス(天空)と結婚をして、クロノス(時)とレアの弟姉を生みます。成長したクロノスは父から権力を奪うために父の性器を鎌で切り取って、追放してしまいます。最大権力者となったクロノスは姉のレアをめとり、ギリシャで有名な神々を次々に生む事になるのですが、クロノスは自分がした同じ事を、子供たちからされる事を恐れ、レアが産んだ子供を全部飲み込んでしまいます。レアは悲しみに暮れる日々を送るのですが、もう我慢ができないと思い、最後に生まれた子供ゼウスだけは、クレタ島に隠し、クロノスを騙して石を飲ませます。クレタ島の山中で伸び伸び育ったゼウスは成長し、本土に戻ります。そして、父クロノスのお腹を切り裂き、兄弟達を救うと同時に最高権力者の地位を確保したのです。最も偉大な神と言われている全能の神ゼウスの誕生した瞬間です。そして、この天空に君臨する全能の神ゼウスは、世界を取り仕切るのですが、そのために、他の多くの神々にありとあらゆる事を命じます。無理難題であっても命令を受ければ、誰も逆らう事はできません。逆らうと酷い仕返しをされたり、地獄(冥土)に落とされたりするからです。
だが、多くの神々がゼウスにひれ伏す中で一人だけ果敢に立ち向かった神がいます。プロメテウスという神であります。鳥は飛ぶという技術を与えられ、魚は泳ぐ事ができ、動物は強い爪と俊敏な足を与えられているのに、人間だけは何も与えられていない弱い生き物だと、心から同情したプロメテウスは、ゼウスの命令に背いてまで、鍛冶の神ヘーパイトスの家から火を盗み、人間に与えてしまいます。人類の進歩の第一歩はここから始まったと言われているのですが、その人間の保護神であるプロメテウスはこの行為によって、ゼウスの怒りをかい、岩山に縛り付けられ、ハゲタカに毎日、肝臓をついばまれるという罰を与えられる事になりました。プロメテウスはこの罰に弱音を吐くこともなく、長い年月堪え忍びます。そして、彼が救った人間界の英雄であるヘラクレスに助けられるまで頑張ったといわれていいます。
プロメテウスには一人の弟がいました。その名をエピメテウスと言います。プロメテウスは賢くて、先見の明がありました。それに比べて弟のエピメテウスは少し足りない子で、言われた事しかできない子でした。ここで賢明な皆さんは、この兄弟の名前が、プロローグとエピローグの元になっていると気づかれたと事だと思います。
ゼウスは勝手な事をしたプロメテウス兄弟と人間に試練を与えるために、ヘーパイトスに命じて、エロスと災いをもたらす絶世の美女をつくらせ、人間界に送り込むことにしました。命令を受けたヘーパイトスは、天界一の妖艶な美女である自分の妻アフロディーテにそっくりの女性を泥から創り、パンドラと名付けます。ゼウスはプロメテウスの愚かな弟エピメテウスに、パンドラを贈り物として授ける事にしました。先見性のあるプロメテウスは、先の見えない弟エピメテウスに、ゼウスからの贈り物は災いをもたらすから、絶対貰わないようにと教えるのですが、エピメテウスはパンドラのあまりの美しさに目がくらみ、モノではない人間なのだからいいのではと思い、結婚してしまうのです。幸せな日々が少し続いたのですが、ある日、パンドラは好奇心から、プロメテウスがエピメテウスに絶対に開けてはならないと命じていた黄金の箱を開けてしまいます。箱には宝石などは入ってなく、煙と一緒に、病気、盗み、ねたみ、憎しみなど、人間界にありとあらゆる災いが飛び出してきます。人間の苦しみはこの時から始まったと言われています。これらの災いが人間界に降り注がないようにとプロメテウスがあらかじめ閉じ込めておいたものなのですが、パンドラがその箱を開けてしまったのです。ただ、一つの救いは、誰かが開けることを予想して、プロメテウスは箱の底に希望と言う名の未来を入れておいたのです。最後の煙と一緒に飛び出してきたのが、その希望という名の未来でした。我々、人間はどんなに苦しい状況になっても、希望と言う名の未来があるかぎり生き続ける事ができるのはそのお蔭だと言われています。このようにギリシャ神話はすべて、イキイキと面白く示唆に富んでいます。