「神戸安養寺再建について」 鈴木 正明 会員
今日の卓話は、現在進めております寺院建築についてお話いたします。
本日、お配りしました資料は本堂の模型写真と平面計画図の3枚です。
模型は昨年に、設計図に基づき宮大工の方に造っていただきました。縮尺は1/10の総檜造りです。
今回の寺院再建については、以前にもお話したかと思いますが、あれから3年が経ちましたが、始まりは平成16年からであります。安養寺は阪神大震災で半壊しまして、現在まで本堂庫裡はプレハブの建物で維持してきましたが、長い道のりでの再建の目処がたちました。
安養寺の歴史をたどると、創建は西暦900年代後半との事であります。天台宗の源信(恵心僧都)の妹 安養尼による建立との事です。一千年の歴史を持つ寺院建築にたずさわることになるとは思いもよらぬことでありますが、平成16年の段階では近代寺院での再建との事でしたので、それなら私でも少しは、お手伝いできるのではとの安易な思いでありました。
現在のご住職は安養寺を再建するために福井県からこられています。前住職は病に倒れ再建は難しいとの判断で、浄土宗兵庫教区の責任者が指名されたそうです。今は神戸と福井とを行き来し、お忙しい日々を送られておられます。
再建にあたりご住職から提案がありました『みんなが集まれるところを造りたい』宗派にこだわることのない建築様式でかまわない。
建物内部は下陣から内陣を見る際、遮る柱は無くしてほしい。下陣の柱間を5間としたい。
且つ、木造の伝統工法石場建てにしたいとのことでありました。
木造で柱間5間は約10m、それも伝統石場建て、私には経験がありませんので鉄骨造ではどうですか 構造用集成材ではどうですかとの問いかけに、いつも答えは『伝統工法で行きましょう、それが一番いいのです』信念のお方であります。 建物も近代寺院から古建築様式にしましょう『今の時代、古建築に興味を持つ方々が多いのでは』と、ご住職の息子さんの一言で決まりました。
息子さんは定期的にインドのブタガヤにある寺院に行っています。ブタガヤの寺院は、ご住職が建てられた寺院だそうです。そこには安く泊まれる宿舎があり、いろんな国から若者たちが訪れるそうです。そんな中、日本でもみんな集まれる場所になれる寺院本堂でありたいとの思いが、ご住職のこころにあるのでしょう。
私は古建築物設計の経験がありませんので、お断りすることにしましたが『これも何かのご縁』との事でみんなと『わいわいやれたらいいので、縁がなければ自然と付き合いがなくなるので』との諭しで大役を引き受けることになりました。
引き受けるのはいいのですが、何からやればとの思いで、約1ヶ月間ほど寝付かれず悶々としてましたが、関西は古建築それも国宝が沢山ありますので、毎週日曜日には奈良の寺院巡りから始めました。 それと先人に学ぼうと『西岡常一棟梁自伝』から堂塔建築の専門書、国宝寺院の修理工事報告書などを読み、日曜日には実物を見るの繰り返しを続けながら、基本設計を進めました。
基本設計を進めるに当り、柱間5間は変わらずで構造的にどのように処理するか。又、参考になりそうな寺院を見に行きの繰り返しの始まりです。 ほんの少しづつではありますが、本で読んだものが実物をみて理解が深まりの繰り返しで基本設計に数年かかったように記憶しています。 その間も、あちらこちらの寺院巡りをしました。奈良以外では遠くは尾道の浄土寺阿弥陀堂、兵庫県三木市の浄土寺浄土堂などがあります。そのようなことの繰り返しで、実施設計も約80%終わり昨年9月本堂の確認申請書が認可されました。現在は山門の設計をしております。
工事の方は、今月から宮大工さんたちによる化粧垂木の加工が始まりました。 材木は天理市の製材所から、直接買い付けをしていただきましたので、少しは安く購入できたのではないかと思っております。 落慶は平成26年内に予定しております。来年3月から現地での建て込みを開始いたしますので、興味のある方はご案内いたします。