「文系の量子論」 林 裕之 会員
まずは、サイズの話です。
細胞は、10⁻⁵m=0.00001=0.01mm程度です。原子、分子は、10⁻10m=1000万分の1mm。
原子をビー玉サイズに拡大すると、野球ボールが地球サイズ(直径約13000m)になります。
原子核(陽子+中性子)は、10-14m=1000億分の1mm。
原子核をビー玉サイズに拡大すると、原子は東京ドーム全体くらいのサイズになります。
電子は10-18m以下で正確なサイズは不明です。
量子とは、文科省の定義によると「粒子と波の性質をあわせ持った、とても小さな物質やエネルギーの単位」と言われています。
量子の代表選手は、電子・中性子・陽子といったものや、光を粒子としてみたときの光子、ニュートリノやクォーク、ミュオンなどといった素粒子などです。
量子論は、電子、光子のようなミクロな世界の話で、ニュートン力学の妥当するマクロ世界の常識が通用しない、非常識な世界となっております。
・粒子と波の2面性
一つの量子が、粒子の性質と波の性質の両方を併せ持っています。イメージできませんね、基本的に量子論はイメージできません。実験や計算結果がそうなっているという話が多いと感じます。なので、人間が電子サイズになって実際に見ると違うんじゃなないか、なんて思ったりします。
・状態の共存
一つの量子が、同時に複数の場所に存在します。また、複数の状態が共存します(重なり合っている)。複数の量子が存在するわけではありません。
・確率解釈
量子の波は、量子の発見確率と関係している。量子の波の振幅の高い場所ほど、量子の発見確率が高くなる。(存在確率ではない。)
・コペンハーゲン解釈
複数の量子的な状態が、観測によって一つ(針状の波)に収縮します。
粒子の性質についてですが、種々の実験から説明がなされています。例えば、光は、振動エネルギーは連続的に変化するものではなく最小単位(hv)があること、光電効果の説明など、粒子としての性質がないと説明できない現象が多く見つかっています。
波の性質についてですが、まず波とは「ある場所での何かの振動が、周囲に広がりながら伝わっていく現象」といえます。ですから、広がりながら進みますが、粒子は1カ所にあってまっすぐに進みます。両者は全く相反するものです。
粒子が波打ちながら進むということではありません。同時に両方の性質をもつのです。
波は、障害物があると後ろのかげにまわりこんで進みます(回折)。また波には山があって谷があります。山又は谷の高さを「振幅」といい、山一つと谷一つの長さを「波長」と言います。二つの波の山同士をぶつけると2倍の振幅の波になります。山と谷をぶつけると波は消えます。このように二つの波がぶつかって強め合ったり弱め合ったりする現象を「干渉」といいます。余談ですが、シャボン玉がカラフルに見えるのも干渉によるものです。
・2重スリット実験
スリット1つの板とスリット2つの板を並べて、多数の量子、例えば電子を発射し、向こう側に何が現れるかを見る実験です。この実験から様々なことが説明できます。
粒子を発射すれば、スリットに合わせて2本の線状に観測されるはずです。
ところが、多数の量子を発射すると、縦の縞模様に観測されました。
波であれば、回折と干渉が起こり、縞模様となります。つまり、光子や電子などの量子は、波の性質を持つということです。
また、2重スリット実験で、電子を1個ずつ発射した場合、どうなるでしょうか?同じく縞模様になりました。
1個の電子なのに、回折と干渉が起こったということです。それは、すなわち、1個の電子が、同時に複数の場所に存在するということです。そうでないと干渉が生じません。複数の電子が存在するわけではありません。
また、2重スリット実験は、干渉により振幅が増えた縞模様の場所で観測されたことから、電子の波の振幅の高い場所ほど、電子の発見確率が高くなる、という確率解釈も導くものです。電子の運動の未来は偶然に支配されており、正確に予測することは不可能ということです。
さらに2重スリット実験で、2枚目のスリットの出口で観測をするとどうなるか?
2つのスリットの一方でのみ観測され、縞模様は現れず、2本の線になりました。粒子と同じです。
ここから、コペンハーゲン解釈が生まれました。複数の量子的な状態が、観測によって一つ(針状の波)に収縮するというのです。
他の考え方として、電子は観測する可能性のある箇所すべてで観測され、その観測地点ごとに別々の世界に分かれる(パラレルワールド)、というものがあります。
量子論により、自然界がなにもかもあいまいであることが分かってきました。
詳細は割愛しますが、自然界のあらゆる量に不確定性関係があります(揺らいでいる)。例えば、位置と運動量(運動方向)、時間とエネルギーなどのように、互いに関係のある物理量を同時に正確に決定することは原理的に不可能であるという理論です。
不確定性原理からすると場所ごとのエネルギーは揺らいでいます。つまり、真空でもエネルギーが極短時間ですが生まれたり消えたりしているということです。エネルギーが生まれるということは物質が生まれるということです(E(エネルギー)=m(質量)c(光速)2)。なお、この真空の揺らぎによって生じるエネルギーが、宇宙の謎であるダークエネルギーの最有力候補ですが、計算上120桁多くなってしまうらしいです。
また、これに関連して、量子は、揺らぎによって一時的に大きなエネルギーを持つことがあり、その時に壁をすり抜けます(トンネル効果)。
その他の量子論から導かれる話はいろいろとあります。
例えば、電子は、特定の軌道にのみ存在できる。光(エネルギー)を吸収したり、放出したりすると、別の軌道に移ることができます。この理論を利用して半導体が作られています。
他にも、渡り鳥がなぜ迷わない(地磁気の探知方法)?化学反応はなぜ起きるか?光合成のエネルギー変換効率(ほぼ100%)、超伝導の仕組み、などが量子論から説明されます。
量子論により様々な現象の説明ができていますが、重力との関係だけ説明に成功していません。アインシュタインの一般相対性理論は、量子論を考慮していません。なお、一般相対性理論は、時間と空間、重力についての理論で、質量の回りでは空間と時間が歪んでいて、この空間の歪みが重力である、というものです。
現在、超ひも理論が研究されています。素粒子(最小の粒子)を長さを持つ「ひも」として考える理論です。太さはなく長さ(10-35m)だけある「ひも」。「ひも」の振動の様子(=波の形)がかわると、違った種類の素粒子に見えるというものです。
量子論において重力を扱う理論、量子論と一般相対性理論を融合させる理論です。すべての素粒子とその間に働く力、そして時間、空間を一つの枠組みであつかう理論であり、万物の理論と言われています。
・量子コンピュータ
コンピュータは、0(=電気信号無し)と1(=電気信号有り)で処理します。0と1の一つが1ビット。例えば、1110は4ビットですね。
量子コンピュータでは、量子ビットを使います。量子ビットとは、量子における状態の共存(重ね合わせ)の状態、つまり0と1の状態を共存させたもので、そのまま計算していきます。
10ビットであれば、210=1024通り表現できますが、1回で表現できるのは1個です。しかし、量子ビットでは、1個に2通りの状態が共存していますので、1回で1024個表現できます。例えば、1~1024の数に5を乗じる計算をする場合、通常コンピュータでは1024回5を乗じる計算をする必要がありますが、量子コンピュータでは1回で済みます。
現在IBM、Googleや理研、富士通などが開発競争をしています。2019年にGoogleが約50量子ビットの開発に成功しました。50量子ビットで250=約1126兆通りの並行処理を行うことができ、当時のスーパーコンピュータでは事実上不可能な計算を短時間でできるとのことでした。また、2023年末にIBMが1121量子ビットの開発に成功したようです。
ただ、量子コンピュータは、エラーが起きやすいようです。観測すると状態の共存がなくなり、一つに確定してしまうので、エラーの有無を途中で確認することができません。エラー訂正にために様々な手法が研究されているようで(量子もつれを利用するなど)、そのために多くの量子ビットが必要で、実用化には10万とか100万量子ビットが必要と言われています。
・量子暗号キー
量子ビット(主に光子)を使った暗号キーです。観測されると状態が変化(一つに固定)するので、盗み見が必ず発覚する、という理屈です。詳細は割愛します。
ただし、送受信に専用の機械が必要で多額の費用がかかること、光ファイバーを使った量子キーの配送の距離と速度に制約があることから、外交・防衛等の国家機密など限られた範囲で利用されており、広く実用化するには至っておりません。
以上で、僕が勝手に勉強してきた量子論を終わります。ミクロの世界の不思議、いかがだったでしょうか?誰も見ていない世界です。実験結果の僅かな差異から、思考を巡らせ、仮説を立て、さらに思考を巡らせる。物理学者は、理性的でありながら、豊かな発想が必要で、本当にロマンティックだなぁと思うところで、僕が最も共感するところです。
ご清聴、ありがとうございました。